高速鉄道用スラブ軌道システム

スラブ軌道構造は、一般に「新幹線」として知られる日本の高速鉄道における独自の特徴です。スラブ軌道は日本で発明され、独自の進化を遂げてきたものであり、今日では「高速鉄道用軌道」の代名詞ともなっています。日本初の高速鉄道である東海道新幹線は、1964年に東京・新大阪間で営業運転を開始しました。当時の東海道新幹線には、在来線と同様のバラスト軌道構造が採用されていました。しかし、従来のバラスト軌道では、列車運行密度の増加に伴い、軌道狂い(軌道の幾何学的形状の乱れ)が頻繁に生じるという問題がありました。こうした軌道狂いの問題に加え、保守作業に充てられる時間の短縮や労働力不足といった要因も重なり、保守の手間を大幅に軽減できる軌道構造の導入が強く求められるようになりました。その結果、旧日本国有鉄道(国鉄)は1965年にスラブ軌道の研究に着手し、その後、山陽、東北、上越といった後続の新幹線路線において、同構造を広く導入・展開していきました。

スラブ軌道の構造

スラブ軌道の構造を図1に示す。スラブ軌道は、プレキャスト鉄筋コンクリート(RC)製スラブで構成されており、その上に締結装置およびレールが設置される。高架橋上またはトンネル内の路盤コンクリート上に、厚さ約300mmの軌道床コンクリートを打設するとともに、直径520mm、高さ250mmの円形コンクリートダウエル(アンカー)を5m間隔で等間隔​​に設置する。この軌道床コンクリートの上に軌道スラブを敷設するが、両者の間には約50mmの隙間が設けられ、この隙間には専用に設計された合成樹脂製バッグを用いてセメントアスファルト(CA)モルタルを充填する。CAモルタルはスラブ軌道における緩衝材としての役割を果たし、構造全体に弾性(復元力)を付与する。コンクリートアンカーは、スラブ軌道の長手方向および横方向への移動を防止する役割を担う。スラブ軌道用のRCスラブは、工場にて製造される。軌道スラブの寸法は、幅2200mm、長さ4900mm、厚さ190mmである。1枚あたりの軌道スラブの重量は約3.9トンである。軌道スラブの製造サイクルは、図2に示す通り約24時間である。製造完了後、7日間の水養生が行われる。この工程を経て、軌道スラブは設置可能な状態となる。

スラブ軌道の経済性

日本の経験から、スラブ軌道の初期建設費は従来のバラスト軌道に比べて約1.3倍高いものの、長期的な視点でライフサイクルコストを考慮すれば、スラブ軌道の方が経済的に優位であることが明らかになっています。こうした事実に基づき、日本で最初の新幹線路線である東海道新幹線(東京~新大阪間)以降に建設された新幹線路線では、軌道構造として主にスラブ軌道が採用されてきました。図3は、日本の各新幹線路線におけるバラスト軌道とスラブ軌道の構成比率を示しています。以下に、スラブ軌道がバラスト軌道に比べていかに経済的に有利であるかを説明する主な点を挙げます。

1.図4は、新幹線の乗り心地に関する目標値を上回る軌道狂い(軌道の歪み)の発生件数を、1キロメートルあたりの数値で示したものです。これを見ると、スラブ軌道の方がバラスト軌道よりも良好な軌道状態を維持できていることが分かります。図5は、山陽新幹線におけるバラスト軌道とスラブ軌道の保守費用を比較したものです。これより、スラブ軌道の保守費用はバラスト軌道の約4分の1に抑えられていることが読み取れます。日本の実績によれば、スラブ軌道はバラスト軌道よりも初期建設費が高いものの、保守作業や必要人員が少なくて済むため、約9年でその初期投資の差額を回収できることが判明しています。
2.スラブ軌道構造はバラスト軌道構造に比べて軽量であるため、高架橋の建設費を含めた新線全体の建設費を低く抑えることが可能です。また、スラブ軌道はバラスト軌道に比べて軌道高(高さ)が低く設定されています。軌道高が低くなればトンネルの断面積を縮小できるため、結果としてトンネルの建設費を約30%削減することが可能となります。
スラブ軌道のコスト削減に向けた取り組みの一環として、日本では「フレーム型軌道スラブ」が開発されました。フレーム型軌道スラブは、内部が中実(中身が詰まった状態)である従来のスラブ軌道とは対照的に、スラブ内部に中空部(空洞)を設けた構造となっています。従来のスラブ軌道において構造上不要とみなされる中央部分を取り除くことで、コンクリート、鉄筋、およびCAモルタ3.ルにかかる余分な資材費を節約しています。さらに、構造が軽量化されたことで、コンクリートの収縮に伴う「拘束効果(反りやひずみ)」が低減されるほか、取り扱い作業が容易になるという副次的な利点も得られています。
4.スラブ軌道を用いた建設工事では、あらかじめ工場で製作されたプレキャスト部材(セグメント)を使用し、一度に5枚の軌道スラブを把持・敷設できる専用の軌道敷設機械を導入することで、迅速な施工が可能となっています。

スラブ軌道の力学

1.図6は、スラブ軌道モデルとバラスト軌道モデルにおける変位図を示している。スラブ軌道の曲げ剛性はバラスト軌道に比べて著しく高いため、スラブ軌道構造のたわみ量はバラスト軌道構造よりも大幅に小さいことが読み取れる。バラスト軌道の路盤における応力レベルは極めて高くなるため、軌道狂い(軌道形状の劣化)が頻繁に生じやすい。一方、スラブ軌道においては、荷重がより広い範囲に分散されるため、軌道の変形はより滑らかなものとなる。これに対し、バラスト軌道の変形は、荷重が作用する点付近では急峻である一方、荷重から離れた領域ではほとんど変形が生じないという特徴がある。これは、バラスト軌道の軌道床の剛性が著しく低く、荷重による力を広い範囲に分散させることができないことに起因している。

2.設計速度350km/hの条件下では、軌間およびレール高において±1mmの精度を確保することが求められる。同様に、10m弦長における水準および平面線形についても、±2mmの精度が要求される。スラブ軌道においては、調整機能付きのレール締結装置を用いることにより、こうした高精度なレール表面仕上げを実現することが可能である。図7は、スラブ軌道に採用されている締結装置の一種(Direct-8型)を示したものである。

結論

1.高速鉄道において、スラブ軌道はバラスト軌道に比べ、その高い曲げ剛性ゆえに優れた性能を発揮します。この特性により、スラブ軌道では作用する荷重がより広い範囲に分散され、軌道のたわみもバラスト軌道と比較して大幅に抑制されます。結果として、スラブ軌道構造では保守作業の必要性が低減されます。

2.スラブ軌道の初期建設費用はバラスト軌道よりも高額になりますが、保守や作業に必要な労力が少なくて済むため、その費用の差は運行開始から数年以内に相殺されます。また、スラブ軌道構造は軽量かつスリムな構造であることから、高架橋やトンネル区間において特に大きな利点をもたらします。

参考文献
i.三浦茂、高井秀行、内田正夫、深田泰人(1998)「線路の仕組みと鉄道技術の現在2」、鉄道・交通評論社、1998年3月、pp.38~45。
ii.安藤勝敏、須永誠、青木一二三、芳賀治(2001)、「北陸新幹線のスラブ軌道の開発」、鉄道総研QR、Vol. 42、No.1、2001年3月、35〜41ページ。
iii.Georgios Michas (2012)、「高速鉄道のためのスラブ軌道システム」、スウェーデン、ストックホルム、王立工科大学交通科学部修士課程プロジェクト35。
図6:スラブ軌道とバラスト軌道のたわみモデル
図7 スラブ軌道用ダイレクト8型締結装置
アヌパム・アワスティ/副CPM(IN)/土木/ヴァドーダラ

シュシュマ・ガウル
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