高速鉄道(HSR)ナルマダ橋の井筒基礎における傾斜修正への「ジャッキダウン・引戻し工法」の適用
NHSRCL 主席プロジェクトマネージャー シュリ・アクシャヤ・クマール

概要:井筒基礎は、鉄道、高速道路、あるいは大河川を跨ぐ橋梁や高架橋といった大規模な土木構造物において、最も古くから用いられつつも、極めて有効な基礎形式の一つとされています。井筒基礎は効率的かつ経済的である一方で、沈設作業中に井筒が傾斜したり位置ずれを起こしたりすることが、一般的な課題として挙げられます。その主な原因としては、河川の急流や潮汐といった自然外力、あるいは沈設深度における想定外の地盤条件などが挙げられます。過去数十年にわたり、井筒基礎の傾斜や位置ずれを修正するための様々な工法が開発されてきました。具体的には、偏心グラブ掘削、偏心載荷、引戻し、ケントレッジ工法などが挙げられます。本稿では、傾斜・位置ずれ修正のプロセスである「引戻し」とは一線を画す、革新的な技術として「ジャックダウン工法」を紹介します。この工法は、ケントレッジ工法および偏心グラブ掘削工法と併用して適用されるものです。

導入

本レポートは、ムンバイ・アーメダバード高速鉄道(MAHSR)プロジェクトの一環として建設が進められている「ナルマダ橋(井筒基礎)」に関する事例研究を主な焦点としています。インドの高速鉄道プロジェクト、すなわちMAHSRは、インドにおける鉄道輸送のあり方を一変させることを目指した、大規模なインフラ整備事業です。本プロジェクトでは、インド有数の大都市であるアーメダバードとムンバイを結ぶ、全長508キロメートルにおよぶ高速(時速320km)複線鉄道の建設が計画されています。本プロジェクトにおいて(グジャラート州内で)最長となる河川橋「ナルマダ橋」は、井筒基礎(ウェルファンデーション)を用いて建設されています。

全長1.26キロメートルにおよぶナルマダ川橋梁には、計22基の井筒基礎が採用されています。

本橋梁の主な諸元は以下の通りです:

  • 所在地: グジャラート州バローチ近郊
  • 支間構成: 21 × 60 m (60m連続支間 × 3連)
  • 外径: 10 m
  • 内径: 7.0 m および 7.6 m
  • 井筒壁厚: 1.2 m および 1.5 m
  • 基礎深さ: 51 m ~ 77 m
  • 洗掘深(Scour Level): -19 m ~ -32 m
  • 基礎底面高(Founding Level): -36.00 m ~ -70.00 m
図1

傾斜(Tilt)と偏位(Shift)

井筒基礎における「傾斜(Tilt)」とは、不均一な地盤や岩盤の状況、沈下作業中に遭遇した障害物、あるいはその他の予期せぬ課題など、様々な要因によって生じる、本来の鉛直位置からのずれのことを指します。

井筒基礎における「偏位(Shift)」とは、井筒構造物の沈下過程において生じる、水平方向への移動や横方向へのずれのことを指します。

傾斜の測定は、井筒の軸線に沿った対向する両面に設けた所定の標尺目盛り(ゲージマーク)の水準を照合することによって行われます。この水準の差によって、軸線方向における傾斜の度合いが特定されます。傾斜の大きさは、水準の差と井筒の直径との比率として表されます。

井筒の傾斜は、いかなる場合も「鉛直100に対して水平1」の比率を超えてはなりません。また、井筒底面における偏位(Shift)は、いかなる合成方向においても150mmを超えてはなりません。

図1:井戸における傾きとずれ
図2:傾斜井 No. P09
過剰なティルト/シフトの補正方法

建設業界において、傾斜や偏心(ずれ)を修正するために広く採用されている工法は、以下の通りです。

a)    偏心グラブ掘削
b)    偏心静的載荷(ケントレッジ工法)
c)    ウォータージェット工法
d)    井筒の引張り
e)    井筒の支保(ストラット設置)
f)    ジャッキによる井筒の押込み

本事例研究の対象であるMAHSR(ムンバイ・アーメダバード高速鉄道)ナルマダ橋の井筒基礎においては、現地の施工条件に起因し、ケントレッジ工法では許容し得る結果が得られませんでした。その理由は、井筒の沈下に必要な駆動力(沈下力)が、ケントレッジ工法によって実質的に負荷可能な静的載荷量を大幅に上回っていたためです。

沈下力の算定

沈下力は、以下の要因による抵抗力に対抗するために必要とされます。
a)    井筒外周面に生じる周面摩擦抵抗
b)    浮力

周面摩擦抵抗は、以下の式により算定されます。

ここで、 F = 周面摩擦力(t/m²)
Ka = 主働土圧係数
ɸ = 土のせん断抵抗角(度)
C = 一軸圧縮強さの1/2
Z = 洗掘深さより下方の基礎の深さ(m)
γ = 土の密度(t/m³)

周面摩擦力(F)は、土質に応じて以下の範囲の値をとります。

硬質および軟質粘土     = 0.73 ~ 2.93 t/m²
粘土                             = 4.88 ~ 19.53 t/m²
超軟質粘土            = 1.23 ~ 3.42 t/m²
密実な砂               = 3.42 ~ 6.84 t/m²
密実な砂利            = 4.88 ~ 9.76 t/m²

本事例検討においては、砂層および粘土層の地層構成を考慮し、計算上の周面摩擦力は 4.7 t/m² と仮定しました。

一般に、沈設に必要な駆動力(沈設力)は、ウェルの自重のみによって賄われます。周面摩擦力を低減させるため、沈設時にはエアジェットやウォータージェットなどの工法が用いられます。

沈設力は、以下の要素から得られます。

a)    ウェルの自重
b)    エアジェット/ウォータージェット(周面摩擦力の低減、または浮力によるもの)
c)    ケンレッジ(重り)やジャッキダウンなどの外力

したがって、沈設力は次式により算出することができます。

ここで、f = 平均沈設抵抗(t/m²)
A = 井筒の断面積(m²)
W = 井筒の単位長さあたりの重量(t/m)
w = 無筋コンクリートの単位体積重量(t/m³)
δ = 水の単位体積重量(t/m³)
P = 井筒の周長(m)
H1 = 水面上における井筒の高さ(m)
H2 = 水位面下から基礎地盤面までの井筒の高さ(m)
H3 = 基礎地盤面下において周面摩擦が作用する井筒の深さ(m)
限界条件では、H1=0、H2
上記を簡約すると、

以下の条件を考慮する:

  • ✓ 浮力(Buoyancy):井筒重量の (1000/2500) とする。
  • ✓ 側面摩擦力(Skin Friction)= 4.7 t/m² × 井筒の表面積。
  • ✓ エアジェッティングおよびウォータージェッティングにより、必要な外力は約50%低減されるものとする。

必要な外部沈設力の計算

各深度における必要沈設力を算出し、以下に示す。
(これらの計算は概算であり、厳密な理論的根拠に基づくものではない。)

深度 (m) 井筒躯体の単位長さ当たり重量 (W) (MT) 平均沈設力 (T/m²) 総沈設力 (MT) 総側面摩擦力 (MT) 必要外力 (MT) エア/ウォータージェッティング (MT) ジャッキダウン力 (MT)
A B C = (4/7) × (W/P) D = C × 面積 E = 4.7 × 面積 F = D - E G = 0.5 × F H = F - G
10 100 1.82 572 1477 905 452 452
20 100 1.82 572 1477 905 452 452
30 100 1.82 572 1477 905 452 452
40 100 1.82 572 1477 905 452 452
50 100 1.82 572 1477 905 452 452

※ エアジェッティングおよびウォータージェッティングにより、必要外力の50%が低減されるものと仮定する。

上表から分かるように、深度30mを超える場合、必要な沈設力は1000MTを超えるため、従来のケントレッジ(Kentledge)工法のみでは十分ではないと判断された。そのため、所要の沈設力を確保するために、「土質アンカーを用いたジャッキダウン工法とケントレッジ工法の併用」が採用された。

井戸におけるエアジェットおよびウォータージェットの配置

エアジェッティング設備の設置

a)    井筒表面の周面摩擦を低減し、エアジェッティング(空気噴射)を円滑に行うため、カバーゾーンに直径25mmのPVC管を水平に設置する。この配管は、井筒の構築層(リフト)ごとに交互に配置するものとする。
b)    各水平配管層への垂直接続部は、圧縮空気の供給を容易にするため、打設済みの井筒躯体の上端から少なくとも1m上方に位置させるものとする。
c)    底盤コンクリート(ボトムプラグ)打設完了後、当該配管に対し、セメント系グラウトを用いた加圧注入(プレッシャーグラウティング)を行うものとする。

ウォータージェッティング設備の設置

a)    粘土層や硬質地盤を掘削・沈下させる際、その作業を円滑に進める目的でウォータージェッティング(水噴射)を用いることができる。

b)    ウォータージェッティングを行うにあたり、必要本数の鋼管(直径40mm~50mm)を井筒躯体内に埋設する。これらの鋼管は、井筒の周方向に沿って等間隔に配置するものとする。

c)   当該鋼管は、井筒躯体の各打設層(リフト)の上端から約1m上方に位置させるものとする。
d)    ウォータージェッティング設備の配置を容易にするため、当該鋼管を井筒カーブ(刃口)の中心部を貫通させる形で設置してもよい。

図5 エアおよびウォータージェッティングの詳細(標準断面) 図6 エアおよびウォータージェッティングの詳細(標準平面)
図4 井戸における空気および水噴射装置の設置構成
傾斜・偏心修正のためのケントレッジおよび偏心把持を用いたジャッキダウン工法

井筒の​​片側(傾斜している側とは反対の面)に最大1200トン(あるいはそれ以上)の荷重を負荷してジャッキダウンを行うこの工法は、モーメントを発生させ、堅硬な粘土層を支点として、井筒の基礎底面より下方の位置を中心として井筒を回転させるものである(図5、7、および8を参照)。

施工手順:

a) 最初のステップとして、井筒の外周部に地盤アンカーを設置する(図5)。周辺地盤に設置する地盤アンカーの数量、配置、および深度は、周面摩擦力によって必要な抵抗力を確保するのに十分なものでなければならない。

b) 所定の径の削孔をケーシングを用いて行い、井筒の基礎底面より深い位置まで掘り進める(図7および8)。

c) 所定の深度まで削孔が完了した後、適切な径と耐力を有する高張力(HT)ストランドを所定の長さに切断し、削孔内に挿入する。

d) 次に、削孔内に無収縮混和材を添加したセメントスラリーを注入(グラウト)する。

e) 鋼材で製作された高耐力加圧ガーダーを、井筒の躯体(ステイニング)上に設置された架台(スツール)の上に配置する。このガーダーに対し、地盤アンカーに接続された油圧ジャッキが圧力を作用させ、井筒を下方へ押し下げる(図4および6)。

f) 使用する油圧ジャッキは、井筒の沈設に必要な推力(沈設抵抗力)に対して十分な能力を有するものでなければならない。

g) 各ジャッキへの加圧は、井筒の傾斜方向とは逆向きに外力を作用させるような方法で実施しなければならない。

図7(ジャッキ降下時のケントレッジ配置)
図8(ジャッキダウン配置の等角図) 図9(ジャッキダウン配置)
図10(ジャッキダウン回路図) 図11(ジャッキダウン回路図) これ
झुकाव को ठीक करने के लिए, पास के कुएँ से कुएँ के एंकरेज को पीछे खींचना

a) 既存の傾斜とは逆の方向に傾きを修正するため、ケンレッジ(重り)を設置するものとする。

b) 修正対象となる井筒の周囲に75mm幅のスリングを巻き付け、これを滑車装置を介して近隣の井筒に固定(アンカー)するものとする。傾斜した井筒は、隣接する井筒から反力を得る形で、シーブ滑車システムを用いて牽引するものとする。

c) 前述のスリングは、滑車を通した後、牽引力を発生させる機械式クレーンの回転ドラムに接続するものとする。負荷の約4分の1はクレーン(18トン)が負担し、残りの4分の3は隣接する井筒(54トン)が負担するものとする(図9および図10参照)。

d) 同時に、井筒が沈下し傾きが修正されるよう、傾斜方向とは逆の側にサンプ(掘り下げ部)を設けるものとする。

e) サンプを設けた後、井筒の周面摩擦(グリップ長)を低減させ、さらなる沈下を促進するため、井筒の外周側においてグラブ掘削を行うものとする。

f) 必要に応じて、エアジェットおよびウォータージェットによる噴射作業を同時に実施するものとする。

g) 上記のすべての作業を同時に実施することにより、井筒の傾きは所定の許容範囲内に修正されるものとする。

図12(傾き補正用プーリー配置)

さて、No.9の井筒には1:25の傾斜が生じていました。ケントレッジ工法(重錘載荷工法)を用いたものの、傾斜の改善は見られませんでした。
前述の通り、隣接する井筒にアンカーを設置して井筒を引き寄せる工法(図9)が計画・実施されましたが、その結果は極めて良好なものでした。2ヶ月足らずの期間で、約5.0mの沈下が進むにつれ、傾斜は1:25から1:140へと修正されました。日付ごとの傾斜修正の推移については、添付の表に示しています。この工法を採用できたのは、隣接する井筒が(施工によって)乱されることなく、かつ必要な反力を負担し得る十分な深さまで沈下していたためです。

井筒No.09における経時的な傾斜修正の推移

Date Actual Sinking (m) TILT
Tilt along Y-Axis Tilt along X-Axis Resultant Tilt
1 in 1 in 1 in
03/07/2023 32.276 25 244 25
04/07/2023 32.426 24 263 24
19/07/2023 32.471 24 1250 24
20/07/2023 32.472 24 2000 24
20/07/2023 32.640 28 286 28
21/07/2023 32.640 28 286 28
22/07/2023 32.687 26 200 26
24/07/2023 32.735 26 200 26
25/07/2023 33.085 26 179 26
26/07/2023 33.189 27 179 27
27/07/2023 33.349 29 172 29
29/07/2023 33.507 29 172 29
31/07/2023 33.670 30 143 29
01/08/2023 33.685 30 147 29
02/08/2023 33.685 30 147 29
03/08/2023 33.685 30 147 29
05/08/2023 33.685 30 147 29
07/08/2023 33.678 32 145 31
08/08/2023 33.689 34 143 33
09/08/2023 33.778 116 256 106
10/08/2023 34.045 208 455 189
11/08/2023 34.038 204 417 183
25/08/2023 34.273 137 345 127
30/08/2023 34.422 169 370 184
31/08/2023 35.436 120 213 105
01/09/2023 35.559 172 278 146
02/09/2023 37.028 145 286 129
02/09/2023 37.597 149 417 140

他の井筒においては、地層条件の影響により、井筒の沈設作業が順調に進まない事例が見られました。こうした硬質粘土層を貫通して沈設を行うため、「ジャックダウン工法」が採用されました。本稿では、井筒の傾斜修正において、これら2つの工法(ジャックダウン工法および引戻し工法)がどのように活用されたかについて、主に解説します。各工法の採用にあたっては、現場特有の要件や実現可能性を十分に踏まえる必要があります。したがって、実際に採用する工法については、現場の個別条件や適合性を慎重に見極めた上で、極めて慎重かつ的確に選定・適用しなければなりません。

ナルマダ井筒基礎(HSR河川橋梁)における井筒No. P09の傾斜修正

図13(井戸番号09/ナルマダ川橋梁 HSR)
結論

井筒の​​傾斜修正には、偏心掘削やケンレッジ(重錘)の設置など、多くの手法が利用可能です。しかし、HSR(高速鉄道)ナルマダ橋の建設においては、井筒の沈下を促進するために、エアジェットやウォータージェットの併用といった独自の対策が講じられました。また、隣接する井筒からの反力を利用した「引き戻し(ケンレッジ併用)」の手法も、傾斜修正において極めて効果的に活用されました。十分な沈下力が得られない場合に井筒を沈下させる手段として、ジャッキダウン装置を採用したことは、本橋梁の建設において導入された革新的な工法の一つです。本稿では、井筒基礎に関して採用された各種工法の基本概念のみを論じています。記載された詳細事項はあくまで当該現場に特化したものであり、適切な技術的分析および検討を経ることなく、他の現場においてそのまま適用すべきではありません。

参考文献 [1] 文書番号 2005/CE-I/BR-II/8(2005年6月8日付):R.R. Jaruhar 氏(鉄道委員会技術担当委員 兼 インド政府鉄道省事務次官、所在地:ニューデリー-110001)より発出。

シュシュマ・ガウル
ゼネラルマネージャー,
広報
メール: gm.pr@nhsrcl.in
電話: 011-26700000/01
ニシャンク・バヌ氏
シニアマネージャー,
マーケティング & コミュニケーション
メール: mgr.pr@nhsrcl.in
電話: 011-26700000/01
プージャ・シンさん
課長補佐,
広報
メール: am1.pr@nhsrcl.in
電話: 011-26700000/01